大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1839号 判決

控訴人

高津電動精機株式会社

右代表者

高津進

右訴訟代理人

中村源造

外一名

被控訴人

川崎市信用保証協会

右代表者

高橋正行

右訴訟代理人

高野俊男

主文

本件控訴を棄却する。

ただし、原判決添付別紙第三配当表のうち順位3の1以下を別紙のとおり改める。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一横浜地方裁判所が本件任意競売事件につき、被控訴人主張の手続を経て原判決添付別紙第一配当表を作成したこと、被控訴人が昭和五〇年一二月二五日の配当期日において、右配当表中順位3の1以下につき被控訴人主張のとおり異議を述べたが、右異議が完結しなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、被控訴人が本件任意競売事件において配当をうけることのできる金額について以下検討する。

1  〈証拠〉によれば、訴外会社が昭和四七年八月二五日訴外銀行から金二〇〇〇万円を、利息・年7.5パーセント、遅延損害金年一四パーセント、その他被控訴人主張のとおりの約定にて借受けたこと、被控訴人が同月二二日訴外会社の委託により、訴外銀行に対し、訴外会社の右借受金債務(以下「本件借受金債務」という。)を保証する旨約したことを認めることができ、訴外浜田が同月二五日訴外銀行との間で、訴外浜田所有の本件土地建物につき極度額を金二〇〇〇万円とする被控訴人主張のとおりの根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定する旨約し、同年九月二五日その旨の登記手続を経由したことは、当事者間に争いがない。〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、訴外会社が昭和四八年一二月二五日割賦弁済不履行のため、本件借受金債務につき期限の利益を失つたことが認められ、本件根抵当権について昭和四九年一月八日取引の終了により元本が確定し、同年八月六日元本確定の付記登記がなされたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が昭和四九年八月九日訴外銀行に対し、本件借受金債務につき、元本金一八八〇万円及びこれに対する同年一月一日から三月三一日まで九〇日間の約定以下の年7.5パーセントの割合による遅延損害金三四万七六七一円、合計金一九一四万七六七一円を代位弁済(以下「本件代位弁済」という。)したこと、訴外銀行は右弁済当時本件借受金債務の残元本及び遅延損害金を右金額のとおりとし、右金員の受領により本件借受金債務の残額全部の弁済をうけたものであることを認めることができる。そして、昭和四九年八月一三日本件代位弁済を原因として被控訴人のため本件根抵当権移転の付記登記がなされたことは、当事者間に争いがない。

2  以上によれば、被控訴人は、本件代位弁済により主債務者たる訴外会社に対し求債権を取得するとともに、右求償権を確保するため、その範囲内において、訴外銀行の訴外会社に対する貸付金債権及びこれを担保するための訴外浜田に対する本件根抵当権を代位取得したことになる。そこで、被控訴人が取得した右求償権の範囲及び被控訴人が訴外銀行に代位して本件根抵当権を行使しうる範囲、すなわち本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の額について検討する。

(一)  まず、右求償権の範囲については、〈証拠〉によれば、昭和四七年八月二二日被控訴人と訴外会社との間で、被控訴人が訴外銀行に対し本件借受金債務を代位弁済した場合、訴外会社は被控訴人の弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年14.6パーセント以内の割合による遅延損害金を償還する旨を合意した事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。民法四五九条二項が準用する同法四四二条二項は、委託をうけた保証人が代位弁済をした場合、主債務者に対して代位弁済の日以降の法定利率による利息ないし遅延損害金を求償することができる旨を規定しているが、右は求償権に対する利息ないし遅延損害金について当事者間に何らの約定もない場合にその欠缺を補充するための規定であつて、遅延損害金の利率等について当事者間に別異の約定がある場合にはこれによるべきものと解するのが相当であるから、被控訴人は訴外会社に対し、前認定の代位弁済金一九一四万七六七一円及びこれに対する本件代位弁済の日の翌日である昭和四九年八月一〇日から完済まで年14.6パーセント以内の割合による遅延損害金を求償しうるものというべきである。

(二)  次に、被控訴人が訴外銀行に代位して本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の額について考えるに、民法五〇一条但書五号は、保証人と自己の財産をもつて他人の債務の担保に供した者(以下「物上保証人」という。)との間の代位の関係について、その頭数に応じてのみ債権者に代位する旨を規定しており、右によれば、被控訴人は本件根抵当権の被担保債権として、訴外銀行から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権のうち被控訴人と訴外浜田の二人でこれを二分した一しか主張しえないことになる(〈証拠〉によれば、訴外浜田は本件借受金債務につき物上保証すると同時に連帯保証もしていることが認められるが、同一人が同時に物上保証人と保証人を兼ねる場合、民法五〇一条但書五号の適用についてはこれを一人とみるのが相当である。)。しかしながら、民法五〇一条但書五号の規定は、物上保証人と保証人との間で、弁済による代位に関し特段の定めがない場合に、右両者の負担部分の割合が同一であるとして、その間の利益の調整を図ることを目的とした補充規定であり、右両者の間で、負担部分の割合につき右と異なる約定をし、代位の関係についてもその割合によるべき旨の約定をすることは何ら妨げられるものではなく、右のような約定がなされた場合には、右両者の関係はこれに従つて定まると解するのが相当である。

これを本件についてみると、〈証拠〉によれば、昭和四七年八月二二日被控訴人と訴外浜田との間で、被控訴人が訴外銀行に対し本件借受金債務を代位弁済した場合には、訴外浜田は訴外会社と連帯して、被控訴人の弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年14.6パーセント以内の割合による遅延損害金を償還する旨、訴外浜田が訴外銀行に対し保証債務を弁済し、又は訴外浜田において訴外銀行に提供した担保が実行された場合には、訴外浜田は被控訴人に対し何らの求償をしない旨及び被控訴人が本件借受金債務を代位弁済した場合には、被控訴人は訴外浜田が訴外銀行に提供した担保の全部につき、訴外銀行に代位し、その求償権の範囲内で訴外銀行の有していた一切の権利を行使できる旨の合意がなされた事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、被控訴人と訴外浜田とは、右同日、訴外会社が訴外銀行に対して負担する本件借受金債務につき、物上保証人としての訴外浜田と保証人としての被控訴人の負担部分の割合を訴外浜田が全部で被控訴人が零とする旨の約定をし、被控訴人が訴外銀行に代位して訴外浜田に対して本件根抵当権を行使する場合の両者の関係について、右負担部分の割合に応じ、被控訴人において訴外銀行から代位取得した貸付金債権を全部行使できることとする旨の約定をしたというべきである。してみると、先に説示したところにより被控訴人は、本件根抵当権を代位行使するにあたり、その被担保債権として、少なくとも訴外浜田に対する関係においては、民法五〇一条但書五号の規定にかかわらず、訴外銀行から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権全部について、本件根抵当権の極度額の範囲内において優先弁済を主張しうることとなる。

(三)  ところで、〈証拠〉によれば、控訴人は昭和四八年一〇月二三日訴外浜田との間で、本件土地建物につき根抵当権設定契約を締結し、同月二四日その旨の登記手続を経由した、訴外銀行の後順位抵当権者であることが認められる。そこで、このような後順位抵当権者の存在する配当手続においても、被控訴人が、右(一)認定の求償権の範囲についてなされた民法四五九条二項、四四二条二項の規定と異なる遅延損害金の約定及び右(二)認定の物上保証人・保証人間の代位の関係についてなされた民法五〇一条但書五号の規定を排除する約定に従つて本件根抵当権を代位行使しうるかを検討しなければならないところ、主債務者に代わつて弁済をした保証人が求償権の満足を図るべく債権者の有していた根抵当権を代位行使する場合、その被担保債権として優先弁済を主張しうるのは、債権者から代位取得した主債務者に対する債権についてであつて(求償権は右債権を代位行使しうる上限を画するものである。)、弁済による代位の性質上、右被担保債権の額は、求償権の範囲や代位の関係についてどのような約定がなされたとしても、右代位取得された債権額を超えることはありえず、しかも右根抵当権の被担保債権の極度額の範囲内に限られるすじあいである。一方、債権者の有していた先順位の根抵当権の存在及びその被担保債権の極度額は登記簿上公示されているのであるから、後順位抵当権者は、右先順位の根抵当権者によつて右根抵当権の被担保債権全部について右極度額の範囲内において優先弁済を主張されることを甘受すべき立場にあるものというべく、このような立場にある後順位抵当権者との関係で前記各約定の効果を肯定し、これに従つて代位弁済者による根抵当権の代位行使を認めても、それによつてもたされる結果は、後順位抵当権者にとつては自己の容喙することのできない他人間の法律関係によつて事実上反射的にもたらされるものにすぎないというほかない。

したがつて、被控訴人は、後順位抵当権者たる控訴人の存在にかかわらず、本件任意競売事件において、求償権の範囲及び代位の関係が前記各約定に従つて定められるべきものとして、本件根抵当権を代位行使して配当をうけうるものというべきである。

3  被控訴人が訴外銀行から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権の額は、本件代位弁済の時点において前記1に認定したところにより被控訴人の代位弁済額と同額、すなわち元本金一八八〇万円と遅延損害金三四万七六七一円であつたものと認むべきところ、配当期日である昭和五〇年一二月二五日現在においては、右金額に、右元本に対する本件代位弁済の日の翌日から右配当期日までの五〇三日間についての年一四パーセントの割合による遅延損害金三六二万七一一二円を加えた合計金二二七七万四七八二円に達しているから、以上説示したところに従い、被控訴人は、右合計額のうち本件根抵当権の被担保債権の極度額である金二〇〇〇万円(この金額が被控訴人の訴外会社に対する前記2(一)認定の求償権、すなわち元本金一九一四万七六七一円とこれに対する前記五〇三日間についての約定の最高利率である年14.6パーセントの割合による遅延損害金三八五万二五一一円との合計額の範囲内であることは明らかである。)について、本件任意競売事件において優先弁済を主張しうるべきところ、原判決添付別紙第一配当表によれば、順位3番にあたる被控訴人以下の者に配当可能な金員は金一四〇〇万〇五四九円しかないから、右金員は金額被控訴人に配当されるべく、その内訳は、法定充当の規定に従い、前記遅延損害金につきその全額である金三九七万四七八三円、元本につきその一部にあたる金一〇〇二万五七六六円となる。

債権の種別

債 権 額

交 付 額

順 位

債 権 者

損 害 金

3,974,783

3,974,783

3の1

川崎市信用保証協会

元   金

16,025,217

10,025,217

3の2

三以上の次第であるから、原判決添付別紙第一配当表中順位3の1以下に対する配当金の全額が被控訴人に配当されるべきことを求める被控訴人の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容すべく、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、本件控訴を棄却し、なお、右二3に述べたところに従つて原判決添付別紙第三配当中順位3の1以下の部分を別紙のとおり改めることとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小林信次 滝田薫 河本誠之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例